物語の概略:
主人公の高校生男子:荒木陣(あらきじん)は母親を亡くしており、彼の家族は、不在がちな父親と幼い妹の三人。
おんぼろアパート暮らしですが、生活を成り立たせるために家事をし、妹の世話もしながら学校に通っている状態。
学校での活動や交友関係は限られ、いわゆるリア充ではありません。
父親の不在に加えて妹が病気になり、その看病のため学校を何日も休んでいるとき、メインヒロインの真堂礼(しんどうれい)がアパートを訪れます。
真堂礼は荒木陣と同じクラス。
家が近いこともあり、欠席中のプリントを届けに来たのです。
タワーマンションの最上階に一人暮らしをする真堂礼は、孤独に悩むワケありの美少女。
その美少女との交流を描いたほのぼの系ラブコメが「シンデレラは探さない。」です。
2021年5月現在、第二巻まで発売されており、コミカライズもされています。
派手な演出や設定はありませんが、人間同士の温かい交流を丁寧に描いており、読後感が素晴らしい。
男女問わずオススメできる秀作だと感じました。
ヒロインがシンデレラをやめた理由:
恋愛や婚活において、「シンデレラ」という言葉は良い意味ではありません。
一言でいえば受け身の象徴。
自分では動かず努力もせず、ただ待っていればいつの日か王子様が迎えに来てくれるという妄想。
それが「シンデレラ」であり、世には、シンデレラ症候群を発症している女性で溢れています。
でも、このラノベのヒロイン:真堂礼(しんどうれい)は、シンデレラであることを拒否し、主人公の荒木陣(あらきじん)へアプローチを開始します。
なぜか?
- 軽薄で自分の目先の損得しか考えない人たちにウンザリし、孤独を感じていた。
- 荒木陣は全く逆で、他者貢献を行動原理としていた。
- 学内での初めての出逢い場面で偶然、彼に救われ、興味が湧いた。
- その時は連絡先の交換もままならず、接点もなかったため、ずっと彼を観察し続けてチャンスを伺っていた。
他者貢献とは、ギブの精神のこと。
他人に尽くし、その人が喜ぶ姿を見て自分も嬉しくなる。
その姿勢こそが幸福の源泉だというのは、古今東西の哲学者が導き出した真理です。
その真理を高校生で体現している荒木陣が、ヒロインに興味を持たれるのは当然だと言えましょう。
家族的交流を通して描かれる恋模様
ヒロインの真堂礼の母親は他界し、父親は経済力があるが冷たく薄っぺらな人間。
自分が再婚するときに娘が邪魔なので、マンションと資産を与えて一人暮らしをさせます。
外食やコンビニ弁当ばかりの偏った食生活で、精神的にもすさんでいた真堂礼。
そんな彼女にとって、荒木一家との交流は救い以外の何物でもなかったのです。
荒木陣にとっても、彼女は救いの神。
妹の相手をしてもらい、一緒に買い物をし、食卓を囲んでくれるだけで大いに助かる存在。
お互い好意を持ち、家族のように交流し、一緒にいるだけでホッとする関係。
交流を通して徐々にお互いの過去を知り、親密になっていく二人。
彼氏彼女という言葉では表現しきれない、深くて暖かい関係。
「人間は一人では生きていけない」ということを改めて再認識させられた次第です。
「シンデレラは探さない。」のまとめ:
「シンデレラは探さない。」は、ほのぼの日常系ラブコメです。
コメディ要素が少なめとはいえ、妹も交えた会話場面では「クスっ」とさせられることがしばしば。
第一巻を読み終わった時点で、派手なイベントや行事はありません。
二人で登下校することはあっても、いわゆるデートの場面はなし。
共通の趣味を楽しむこともないし、一緒に勉強する場面もない。
告白イベントもないし、手をつなぐこともありません。
でも二人の関係は安定しているし、読んでいて安心感があります。
将来は結婚して仲良し夫婦になるんだろうなと自然に思える雰囲気が素敵なラノベ、「シンデレラは探さない。」
幸せのおすそ分けをして欲しい人は、是非とも読んでみてくださいね。
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シンデレラは探さない。 (講談社ラノベ文庫)
以上